アマビエ、あかべこ、お人形様 疫病から人々を守る地域の守り神
田村市から三春町にかけての磐城街道沿いには、古くから集落内に人形の神像を祀り、それを毎年作り替える習俗があります。地域の方々はその神像を「お人形様」と称し、疫病や災いが外部から入り込まないようにと、魔よけの神様として集落の家々や街道を見晴らす場所に祀られています。
このお人形様、もともと5カ所にあったと伝承されていますが、現在残っているのは、船引町屋形、朴橋(ほおのきばし)、堀越の三地区に伝承されているのみで、他は廃絶してしまいました。いつごろからこの場所に鎮座していたのか明らかになっていませんが、江戸時代に磐城街道沿いに悪病が流行したため、以後、悪魔が村に入らないように立てられたといわれています。
お人形様は形状も大きく、構造も特徴的。高さ4mもの骨組み柱を軸に、木製の異形の面をかけ、杉の葉を用いて頭髪や髭を象り、藁で編んだ衣をかぶせています。三体とも右手には長刀、左腰には刀を携え、大きく両手を広げた“通せんぼ”のしぐさで、集落内部に侵入してくる悪霊や疫病を守る姿をしています。
表情はそれぞれ違いますが、いずれも大鬼の形相で、外から悪いものが入ってこないよう、にらみをきかせています。その攻撃的な印象は、インパクト大!
屋形のお人形様
芦沢地区で、朴橋のお人形様とともにまつられている「屋形のお人形様」。かつては街道の北側の丘に南向きに立てられていましたが、現在は屋形地区の公園内に西向きに祀られています。木彫りのもので、ベンガラによる赤、胡粉による白、砥の粉による茶、松煙墨による黒で彩色。
現在の面は、昭和35年につくられたもので、この前の面は田村市歴史民俗資料館に収蔵されています。
屋形のお人形様
所在地:福島県田村市船引町芦沢字すくも田前地内(駐車場10台)
交通:磐越道「船引三春IC」から車で約10分。または、JR磐越東線「船引」駅から車で約15分
MAP:https://goo.gl/maps/iCDAYxrDiptYYDZ89
朴橋(ほおのきばし)のお人形様
丘の上から街道を見下ろすように高台に佇む「朴橋のお人形様」。屋形のお人形様から約1㎞離れた場所にあります。
白い歯をむきだしにした大きい口の屋形のお人形様とは違い、口もとは小さく、しかも金歯。屋形のお人形様が男であるのに対して、こちらは女ではないかと考えられていました。しかし、鼻の下の黒く塗られた部分がひげであると結論付き、こちらも男性であるのは間違いないと認識されたそうです。現在の面は、平成14年に74年ぶりに作り替えられたものです。
朴橋(ほおのきばし)のお人形様
所在地:福島県田村市船引町芦沢朴橋地内(駐車場なし)
交通:磐越道「船引三春IC」から車で約10分。または、 JR磐越東線「船引」駅から車で約10分
MAP:https://goo.gl/maps/p4tm5JAquCNmaDxt9
堀越のお人形様
一説によると明治38年の大飢饉が原因となって明治40年にお衣替えや祭礼が断絶したとされており、平成4年9月、87年ぶりに現在の三春・門沢線、郡山・大越線の分岐点にある明石神社境内に復元されたのが「堀越のお人形様」。明石神社に収蔵されていたお人形様の面が、地元の方々によって復元されました。
面は他のお人形様よりも古く、江戸時代に作られたもの。ケヤキの一枚板に一刀彫りで仕上げたものを新たに色づけしてあります。
堀越のお人形様
所在地:福島県田村市船引町堀越明神前1−1
交通:磐越道「船引三春IC」から車で約15分。または、 JR磐越東線「船引」駅から車で約15分
MAP:https://goo.gl/maps/LtcJ2vMNDVyaitBKA
古来から伝わる伝統的習俗 希少な「お衣替え」の様子
毎年「お衣替え」と称する衣替えと化粧直しの祭礼が行われ、地区内や家内の無事息災を祈願します。
お衣替えは伝統的な日本の祭りの形態を示すと同時に、神の心像を表現したものとして、2001年、その製作の習俗が県の指定無形民俗文化財に指定されました。
写真は、屋形のお人形様のお衣替えの様子。自然の素材で作られているので、時が経つと杉の葉が赤く色づき、藁が劣化していきます。
2020年は7月26日に屋形のお人形様の衣替えが行われ、保存会や地域の皆様が集まり、約2時間半ほどで作業が完了しました。
まずは支柱を4本埋め込み、枠組みを作ります。現在の枠は昭和54年に作られたものですが、50年ごとに新しく取り替えられます。
この支柱の骨組みに桟をわたし、頭上には竹籠をかぶせ、支柱のまわりはムシロで囲んで胴とします。藁の腹帯には幣束をはさんで、右手にナギナタ、左の腰に刀をはさんでいます。
保存会の方々が材料を持ち寄り、願いを込めて作り上げています。
道中安全や縁結びも
今回ご紹介したお人形様は日本に伝わる民俗信仰の文化で、いわゆる人形道祖神のひとつ。主に東日本の民俗信仰として残っています。
基本的には集落の境にあり、道祖神と同じような意味をもつと言われており、疫病やよそ者、悪霊、穢れている体の人などの侵入を防いだり清められると考えられてきました。また、道中安全や縁結びなども信仰の対象となったとされています。
現在、コロナウイルスの世界的流行に伴い、疫病の流行を防ぐとされるアマビエが注目を集めています。県内でいうと、あかべこなども厄除けや幸運を呼ぶアイテム。
田村市のお人形様も、もっともっと多くの方々に知られていくといいなと思います。
おまけ
疫病退散にお人形様の塗り絵をどうぞ!
https://www.city.tamura.lg.jp/soshiki/18/oningyousamanurie.html
written by 福島TRIP ライター/きだわら まきこ
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